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大学で研究してみませんか 東京大学医学部附属病院・株式会社テンクー訪問

TOHO Today高校

進路企画として行っている「大学で研究してみませんか」。
今回は、保護者の方との面談期間のため午前中のみの授業となる6月19日(水)に、東京大学医学部附属病院と、東京大学発ベンチャーであり、東京大学医学部附属病院とともにがんゲノム医療に取り組んでいる株式会社テンクー(Xcoo)を訪問しました。ご案内くださったのは、桐朋高等学校卒業で、現在東京大学医学部附属病院助教、糖尿病・代謝内科の笹子敬洋先生と、同じく桐朋高等学校卒業で、株式会社テンクー代表取締役社長の西村邦裕さんです。参加したのは、高校2年4名、高校1年2名、中学3年2名、中学1年1名の計9名です。また、途中から東京大学医学部在学中の卒業生も参加しました。

最初に、東京大学医学部附属病院を訪問しました。笹子先生のご案内で、東京大学医学部附属病院内を歩き、病棟が見える場所では「病棟が一棟新設され、病床は1、200あまりとなった。また、病棟の屋上にはヘリポートもある」と教えていただきました。
その後、笹子先生の研究室でお話をうかがいました。

 

まず自己紹介をしていただきました。桐朋学園小出身、桐朋中高では51期で、生徒会活動に取り組むとともに、ESSに所属。卒業後東京大学医学部医学科に進学、現在は医学部附属病院助教、内科・糖尿病を専門になさっています。笹子先生が医師を目指したのは、生まれて間もない頃に二度手術を受け、命を助けてもらった経験があること、また、多くの人の役に立つ仕事がしたいという思いを持っていたことがあるとお話しいただきました。
続いて、糖尿病についてご説明いただきました。
「生活習慣病になるのは、運動不足、食生活の変化による脂肪の過剰摂取によって肥満が増えていることと関係している。現在、糖尿病の患者は1、000万人ほどで、50年で30倍以上増えている。糖尿病の怖さは、いろいろな合併症を引き起こすことにあり、細い血管が詰まると腎臓病、失明などに、太い血管が詰まると、心筋梗塞、脳卒中などに繋がる。治療は、食事、運動によって生活習慣を改善することを基本とし、内服薬、注射薬での治療を、患者の状況に合わせて行っていく。治療で大切になるのは、医師からの声かけ、対話である。医師との対話を通して、本人が納得して生活習慣の改善や自己管理に励むよう、働きかけている。また、薬を始める際にも、効果、副作用などを詳しく説明し、患者が納得をした上で行っている。納得を得るには、その患者にあった話し方をすることが大切だ」とお話しいただきました。

また、研究についてご紹介いただきました。
「研究などを論文にして発表する中で、珍しい患者の症例報告をすることもある。おそらく病気への不安から、肝臓に良いと聞いたサプリメントを摂取し、肝臓の働きが悪化した事例を報告したところ、サプリメントの規制に関する厚生労働省の検討会で取り上げられたことがある。研究の一つとして、マウスを使った基礎研究があり、マウスの遺伝子を操作することで、特定の遺伝子を持たないマウス、あるいは多いマウスを作り、病気のモデルとして詳しく解析し、治療法などの改善に繋がる研究をしている。さらに、マウスでの研究をヒトでの基礎研究に繋げ、生検検体での研究を行っている。また、臨床試験として、これまで通りの治療と、より厳しい目標に向けた治療とでの結果を比較することにも取り組んでいる」といったお話をしていただき、具体的な事例も紹介いただきました。
生徒からの質問で、「マウスを使った研究では、何匹くらいのマウスを使うのか」、「研究内容は自分で決めるのか」、「医者は忙しいと聞くが、実際はどうか」「大学の医師と開業医との違いは?」などがありました。笹子先生のお答えの中で強く印象に残ったお話として、「大学であれ、開業医であれ、医師は最終的には、教授や院長、科のトップなど、自分が何らかのトップになって仕切る役割を担う。この点は医者の仕事の一つの特徴だ」がありました。
続いて、マウスでの実験の一部を紹介してもらいました。
通常のマウスと、遺伝子の異常により、食欲が旺盛なことに加え代謝が悪く肥満になったマウスとを比較する実験において、筋力計による力の計測で、太ったマウスの方が力がありそうなのに実際は力が弱いことを見せてもらいました。また、マウスの血糖値の測り方も紹介いただき、血糖値が高い理由や治療法、薬の効果の確認などについて研究しているとお話しいただきました。
生徒からの質問として、「実験室に冷蔵庫が多いのはなぜか」「マウスの寿命は?」「マウスの感染症対策は?」などがありました。

続いて、西村さんにご案内いただきました。
最初に、東京大学内にある分子ライフイノベーション棟を見学しました。こちらは西村さんが東京大学医学部附属病院とともにがんゲノム医療の研究をしている施設の一つです。インフォマティクス室・シークエンス室などを廊下から見学し、次世代シークエンサなどいくつかの設備をご紹介いただくとともに、ゲノム解析の仕組みをご説明いただきました。

その後、東京大学構内をご案内いただき、安田講堂、図書館などの建物を見学しました。

続いて、本郷三丁目駅近くにある株式会社テンクー( https://xcoo.co.jp )を訪問し、会議室でお話をうかがいました。

最初に自己紹介があり、桐朋小学校出身、桐朋中高では51期で、陸上競技部に所属。卒業後東京大学理科Ⅰ類に進学し、博士課程修了後、東京大学大学院情報理工学系研究科助教などをお務めになりました。その中で起業もされ、現在、株式会社テンクーで代表取締役社長としてご活躍中です。2018年には、文部科学省科学技術・学術政策研究所が選定する、科学技術への顕著な貢献のあった研究者の一人に選ばれています。
がんゲノム医療と、その中での西村さんの取り組みについてご説明いただきました。

「現在、日本人の死因の3割ががんであり、また、2人に1人ががんになる時代であり、個人に合わせた精密医療としてのがんゲノム医療の重要性が高まっている。自分ががんゲノム医療に取り組んでいるのは、複雑で多量の医療情報を、AIの技術によって整理・解析しわかりやすく提示することにより、社会に貢献したいという思いがあるからだ。
がんとは、普通の細胞から発生した異常な細胞の塊のことで、がん細胞は、正常な細胞の遺伝子に傷がつくことにより、発生する。これまでの投薬治療では、がん細胞以外の細胞にも影響が及ぶため大きな副作用が生じたが、がん細胞のみを標的にできる分子標的薬が生まれた。また、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑先生の研究により、免疫チェックポイント阻害剤も生まれている。これらの薬を効果的に使用するには、がん組織の遺伝子の情報を正確に把握することが必要になる。がんゲノム医療によって、遺伝子のチェックを基にした個人に適した治療、予防の実現が見込まれる。現在、がんゲノム医療が推進されているのは、遺伝子情報の読み取り技術の向上によって大幅なコストダウンが実現し、ゲノム医療の実現可能性が高まったことがある。情報技術は医療に貢献できる面がある。
実際のがんゲノム医療の手順は、①医師による検査・診療→②遺伝子情報の読み取り・解析→③データベースを基に治療の科学的根拠を検出→④情報をまとめたレポートの作成→⑤医療機関での診断・治療という流れになり、西村さんの会社では、このうち②~④を担当している」とお話しいただきました。
生徒からの質問では、「コンピュータのプログラミングをいつから勉強したのか」「発がん性のある物質にはどんなものがあるか」「がんによって、遺伝子が傷ついている状態は違うのか」「西村さんは、東京大学工学部で他にどんなことに取り組んだのか」「VRも研究していたそうだが、現在のがんゲノム医療に役立っていることはあるか」「東大工学部ならではの魅力として、どんなことがあるか」などがありました。「DNAを分析することで、その人の能力や未来がわかると聞いたりするが、信憑性はどうなのか」という質問へのお答えとして、「インターネットなどで購入できる遺伝子検査は、生活で役立つことを目的に性質を話題にするもので、病院で受けるゲノム医療は治療を意図した医療行為であり、大きく内容が異なる。遺伝子検査に基づくものには、商品によっては根拠のないものも多いので注意して欲しい」とご説明いただきました。

参加した生徒の感想です。
・医学系の研究や実験はどう行われているのかに興味があったので、参加しました。普段見ることのできない研究施設を見ることができて、勉強になりました。プログラミングが、間接的にではありますが、医療に貢献していることを知ることができ、よかったです。(高2)
・がんやAIに興味があったので、参加しました。医学の研究室を初めて体験して、具体的なイメージを持つことができましたし、工学について西村さんからたくさんお話を聞けて、とても面白かったし、勉強になりました。(高2)
・東大医学部に進学したいと思っているので、参加しました。これまで東大医学部のオープン・キャンパスに参加したことはありますが、普段の様子を知ることができ、大変参考になりました。研究内容のお話を聞き、研究に用いるマウスを見ることもでき、将来へのイメージが膨らみました。また、ゲノム分析により、効果的にがん治療を行えることを知り、素晴らしいと思いました。西村さんのお話を聞き、多分野との融合が起こりやすい総合大学に進学したいという思いが強くなりました。(高2)
・医学にも工学にも興味があり、志望する東京大学にも行ってみたいと思っていたので、参加しました。マウスを使った研究や病院の様子を実際に見ることができたこと、西村先生のスケールの大きなお話を聞き、医学と工学の繋がりの素晴らしさを知ったこと、がんゲノム医療を知り、学部を超えた繋がりを持つ、東大の長所を実感できたことなど、全ての点において良かったです。ありがとうございました(高2)
・純粋に楽しそうだと思い、参加しました。東大の中に入ることさえ、ためらいを感じていたので、良い機会を与えてくださり、ありがとうございました。テレビで見るような研究室を直に見ることができて良かったです。理系に進んだ人がどのようにして社会に出て行くのかが少しわかったような気がして、理系に進もうという目標がはっきりしました。(高1)
・医学部を志望しているので、参加しました。研究室の見学は、普段の生活ではできないような体験で、たいへん興味深かったし、お二人から経験談を交えたお話を聞くことができ、参考になりました。また、医学部に通っている先輩の話を聞くことができたのも良かったです。(高1)
・自分は何に興味があり、大学で何を研究するのか探したいと思い、参加しました。また、医学でどのような研究をしているのかも知りたいと思っていました。大学病院でどんなことをしているのか、また、マウスを使った実験の紹介を通して、研究の様子を知ることができ、大変良かったです。また、がんに対する新たな治療法や研究について詳しく知ることができましたし、情報工学から医療に貢献している方がいることを知り、感銘を受けました。東大病院の中を見ることができ、感激しました。(中3)
・東京大学の医学関係の施設を見学し、どんな研究をしているのか知りたいと思い、参加しました。これまで治療を受ける立場であり、治療を支える医学・科学などの技術もテレビで見るくらいしかできず、医師や科学者を雲の上のような存在だと思っていました。今回参加して、医師も科学者もスタート地点は自分と変わりがないが、「人を救いたい」という強い思いを持っているので、この職にあるのだと感じました。自分が勉強していく上で、何か自信が持てたように思います。また、お二人とも、順序立てて説明してくださり、大変わかりやすかったです。自分がスピーチや研究をする上での手本だと感じました。ありがとうございました。(中3)
・医学部志望で、将来どこの大学に行こうかと思っていたので、参加しました。思っていた以上に、大学の研究について自分なりに理解が持てたように思います。桐朋の先輩に会えて、僕も絶対に医学の道に行こうという気持ちが強くなり、がんばろうと思いました。(中1)