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2019年度PTA講演会 大隅良典先生 桐朋高校新聞局「PRESS TOHO」より転載

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Dec
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11月23日(土)に、本校ホールにて行われましたPTA主催講演会の様子を、本校新聞局員が記事にまとめました。ホームページでもご紹介いたします。

「大隅教授、桐朋へ来校」

去る11月23日、PTA主催で講演会が開催され、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典教授が本校に来校された。大隅教授はオートファジー(細胞の自食作用)の研究をされており、大きな功績を残されている。

講演会は、「半世紀の研究を振り返って ‐基礎研究の大切さ‐」というテーマで、約一時間にわたり行われた。主に講演内容は大隅教授の研究についてで、オートファジーのいろはから今後の展望まで、オートファジーに関する多くの内容が解説された。また、最後には今までの研究を振り返るとともに、若者へのメッセージということで我々中高生へのアドバイスを頂いた。

講演会後、場所をホールから食堂に移し、代表生徒による大隅教授への質問が行われた。主に新聞局員と生物部員がメンバーとなり、研究などに関することについて直接質問をする機会を得た。

以下に、その内容を記す。

――やりたい事を大切にというメッセージを仰っていましたが、やりたい事をやり通す際に意識すべきことは何でしょうか。

「まずもって、社会に求められている研究がストレートにやりたいことと直結していなくても心配しないでください。日本では早くから成果を上げることが求められますが、海外では、そういった風潮はあまりありません。また、仮にやりたいことがなくても、やりたい事を見つけなければならないという強迫観念に囚われる必要はありません。加えて、自分の研究室においても、オートファジーという主題に対して様々な目的で様々な分野の人が関わっているので、協力を得る際には協力にも色々な形があるということを念頭においてほしいです。」

――30年もの間研究を続けてくることができた理由に、様々な技術の発展を挙げていらっしゃいました。印象に残っている科学技術の発展は何でしょうか。

「顕微鏡技術の発展が印象に残っています。先日、最新式の電子顕微鏡に触れる機会があったのですが、オートファジーを発見した当時の顕微鏡と比較すると、分子構造の見え方には大きな違いがありました。その他の分野においても科学技術の発展には目覚ましいものがあります。色々な勉強をすることで世界の変化を知っていって欲しいと思います。その一方で、すべてを追う必要はありません。すべてを追っていると、この情報過多の現代で情報に埋没してしまいます。やりたい事をやるためのものや楽しさを勉強していって欲しいです。」

――基礎研究において行き詰った際にはどうされていましたか。また、どの様にモチベーションを維持していらっしゃいましたか。

「思っているよりも、なんとかなるものです(笑)。研究の際には、前提として大きな問いを自分のなかで持っているとよいと思います。自分が研究していることの背後にあるものを常に考え続けていればモチベーションを維持していけますし、次の課題も見えてきます。自分の研究室では、一つの事だけをやるのではなく多角的に研究を行っているので、なにかしらの発見が常にあります。研究はイチゼロの世界ではありません。正しい実験を続けていれば、必ず次の課題が見えてきます。」

――中高生の時には、どの様に将来を思い描いていらっしゃいましたか。

「高校生の時には研究者を目指すことを決めていました。しかし、その理由は消去法で、スポーツも音楽もあまり得意ではなかったのが大きな理由でした。自分の能力を活かし社会に貢献できるのではと思えたのが研究者でした。」

――研究者を志した具体的な出来事はありましたか。

「大学に入学した当初は何も計画はありませんでした。ましてや、世の中が流動的である今の現代では、早くから何かの専門家である必要はありません。じっくりと自分が何になりたいのかを問うといいと思います。私自身は最初化学の分野に興味を持っていましたが、大学の授業があまり面白くなく、そんな時に出会ったのがこの分子生物学でした。この分野には、自分をワクワクさせる何かがありました。皆さんには、ワクワクする気持ちを大切にして欲しいです。また、今その様な気持ちを持っていなくても焦る必要はありません。生きていくうちに必ず見つかります。また文系、理系といって区分は日本だけのものなので、幅広い分野に興味を持って欲しいと思います。」

大隅教授のメッセージのなかに、小さなことにも疑問を持ち続け沢山のものに興味を持ってほしいというものがあった。今回の講演会などのイベントを含め、功績を残された多くの方の考え方を吸収することは、自らの進路の幅を広げるほか多角的な視点を持つことにも有用である。このような機会に触れることは、多様化が叫ばれるこの時代で自らの付加価値をアピールするときにも大いに重要になってくるであろう。

 

オートファジーとは?

オートファジーを知る前に、タンパク質と生体膜について理解する必要がある。まず、タンパク質について。タンパク質と聞いて、多くの人が食品の中などに含まれる栄養素としてのタンパク質を思い浮かべると思うが、生物学的においてはより多くの分野の説明に用いられる。生体内の生命活性に大きく関わり、生物の生命活動とは切っても切れないのがこのタンパク質なのだ。また、すべてのタンパク質は20種類前後のアミノ酸から構成されているため、地球上の生命が一つの共通の祖先を起源としているとも言うことができる。

次に、生体膜について。細胞内の細胞小器官がそれぞれの境界として持つ膜のことを生体膜といい、それはリン脂質二重層という流動性の高い構造をもつ。また、タンパク質はリボソームで生じ、そこから生体膜を通り細胞内外へと輸送されて機能する。

さて、大隅教授が発見したオートファジーは、タンパク質分解の方法の一つである。ここで、講演会で大隅教授が挙げていた例を一つ引用したい。大隅教授は、大学で最初の生物の授業で学生たちに、「1秒間で何個の赤血球が体内で生成されているか計算せよ」という課題を与える。この課題の回答は毎秒30万細胞であり、つまり、30万細胞の生成と同時に同規模の破壊も起こっているということになる。大隅教授はこの課題を通して学生たちに、合成と分解がいかに普遍的かを伝えようとしているのである。

例の通り合成と分解は非常に重要であり、特に合成に比べ研究の対象とされてこなかった分解も同様に重要であると言える。人のカラダのタンパク質は2ヶ月から3ヶ月で完全に置き換えられることからも分かるように、私たち生命は合成と分解の平衡に支えられているのだ。また、分解の際にタンパク質は、壊れているのではなく壊されているのだということも押さえておきたい。しかもその過程では、合成の時にも劣らない多数の遺伝子が関わっているのである。

そんなタンパク質分解の方法の一つであるオートファジーは、ギリシャ語の「オート(自分)」と「ファジー(食べる)」という言葉から名付けられており、その和名を自食作用という。オートファジーでは、その名の通り細胞内のタンパク質を食べてしまうような形で分解が行われる。まず、細胞内で不要となった細胞小器官やタンパク質が、リン脂質二重層の生体膜で包まれ、オートファゴソームと呼ばれる小胞が形成される。これに各種の分解酵素を含むリソソームが融合し、内部のタンパク質などが分解されるのだ。これによりタンパク質から分解され生じたアミノ酸は、再び細胞内でタンパク質の合成などに利用される。

このようにして起こるオートファジーは、飢餓適応、細胞内浄化、抗加齢、抗原提示、胚発生、病原体排除、腫瘍抑制など、非常に重要な生理機能を併せ持ち、生物学の中でも様々な研究分野から注目が集まっている。また、医学においてもオートファジーはホットな話題であり、神経性疾患やガン、生活習慣病などとの関連が研究されている。それに伴うオートファジーの制御剤開発も近年テーマとなっており、諸外国では大きなフィールドを築いている。

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