桐朋教育の6年間
この写真は私が授業(幾何)で教えている中3生徒の放課後の様子です。中学入学式から2年以上が経ち、はじめは期待と不安からのスタートだった彼らが今では気づかないうちに自分の道を一歩一歩進み始めています。本校での中学生活は多くのことを経験させ、幅広い教養を身につけさせることを大切にしています。中学の授業では受験教科だけに特化せず、生徒の可能性を引き出す内容をたくさん散りばめています。もちろん、この取り組みはホームルーム活動、クラブ・委員会活動でも同じです。自分が輝くところは必ずあります。生徒の個性を引き出すこと、そしてその個性に磨きをかけること、桐朋が目指す教育の1つです。
基本的な学習習慣の確立
桐朋の自由は「育てる自由」です。6年間かけて自主的な態度を育てていきます。入学してきた生徒たちの最初の課題は基本的な学習習慣の確立。例えば、ほぼ毎日ある英語と数学の授業では、小テストを頻繁に実施し、毎日宿題が出されます。さらに、各自で進める学習として、英語では「基礎英語」を聞くこと、数学では『A級数学問題集』(本校数学科が執筆)を各自で取り組み定期的にノート提出することが要求されます。宿題と自主的な学習活動を組み合わせることにより、学習の意味を考えさせ、自分で生活を管理するよう導いていきます。
人と人とのつながりが桐朋教育のみなもと
桐朋の教育のみなもとは「人と人とのつながり」です。担任は自分の学年の生徒と6年間、生活のあらゆる側面にわたり、とことん付き合います。多感な中高時代ですから、生徒たちはさまざまな問題に直面します。そのときに生徒を導く根源となるのは、こうして培った教員と生徒との信頼関係。教員の熱い思いが生徒を動かすのです。また、個性豊かな多彩な生徒が集まってくる桐朋では、生徒同士で受ける刺激も大きく、生徒が生徒を動かします。切磋琢磨して自分が成長するきっかけとなった友とは、一生の付き合いとなることでしょう。
勉強とクラブ活動が中学生活の基本
桐朋では「勉強もクラブも」です。勉強とクラブ活動の両立が中学生の生活の基本です。クラブ活動の参加は自由ですが、中学生の参加率は100%に近く、なかには一人で二つ以上のクラブに参加している生徒もいます。一つのことをものにするには一つのことだけやっていてはダメです。二つのことを同時にやることにより、ときに一方が他方を補い、ときに一方が他方を刺激し、両者共にどんどん成長していくものです。授業を受け、放課後はクラブ活動に汗を流し、家に帰り宿題をして、くたくたになって寝る――それが桐朋の中学生の生活です。
専門性の高い教員集団が中学生の好奇心を刺激する
桐朋には高い専門性を持った教員が集まっています。桐朋のリベラルな雰囲気の中、教員の研究意欲は高く、教職を続けながら自分の専門を研究し続け、学外の学会や研究会で活躍している教員も多くいます。私たちは、専門的な知識は中学生を教えるときにこそ必要なものだと考えています。中学時代の感性の初々しい時期に、学問の面白さを知り尽くした教員から、学問の本質や研究に向かう姿勢を教わる醍醐味は、その生徒の一生を決めるきっかけとなるかもしれません。実際、そのような教員を自分のロールモデルとして、将来を考える生徒も出ています。
豊かな自然が豊かな心を育む
桐朋まで是非一度歩いていらしてみてください。中央線国立駅から南武線谷保駅に伸びる大学通りは、春は桜、夏は深緑、秋は黄金色の銀杏と、四季の移り変わりの美しさを見せてくれます。その大学通りの中間にあるのが桐朋。校門をくぐると、空気がさらに一変します。雑木林(桐朋では「みや林」と呼びます)の緑が、森に入ったときに感じるしっとりとした空気で、訪れる人をほっとさせてくれます。生徒たちはこの緑の中で6年間を過ごします。太古から人間を育ててきたのはこの豊かな自然だったのではないでしょうか。
中学では中身の詰まった基盤づくり(Solid and Fundamental)を目指します。
桐朋高校は「自主」「敬愛」「勤労」を教育目標として、民主的な社会の担い手としてふさわしい自主性と協調性に富む人格の形成に努めています。一人ひとりの生徒がこの学園での学びと経験を通じ、確かな学力と豊かな人間性を身につけて、自立した人間へと成長することを期待しています。
伝統に育まれた自主の精神
桐朋の教育目標の中でも最も重要だと考えられているのが「自主」の精神です。自らの目標に向けて日々クラブの自主練習に熱心に取り組む生徒、仲間と協力し、より良い学校生活や充実した行事を作っていくことを目指しながら生徒会や委員会活動に励む生徒など、自学自習と創意工夫を心がけ、自分にとって大切な世界を持ち、理想や目標の実現に向けて努力を続けているたくさんの生徒たちを目にすることができます。こうした環境の中で互いに刺激し合い、「桐朋生」として着実に成長していくことが伝統として受け継がれています。桐朋はこのような生徒の自主性が尊重されている学校です。
個性を認め、互いに高めあえる仲間
桐朋では仲間との自主的な活動の経験を通じて、お互い同士がそれぞれ尊重しあう仲間意識が生まれています。桐朋は卒業生からとても愛されている学校で、多くの生徒たちが卒業後にも桐朋を訪れ、高校時代の思い出話に花を咲かせることが多くあります。その中で頻繁に出てくることばが「いいやつ」と「すごいやつ」です。学校生活の中で一緒に楽しみながらも、さりげなく寄り添い、気持ちを理解してくれる「いいやつ」がいます。頭の回転が速い生徒、運動能力が高い生徒、知的な探求心が旺盛な生徒、ムードメーカーになる生徒、リーダーシップのとれる生徒、縁の下の力持ちとなってくれる生徒など、自分よりも優れた魅力的な長所を持っている「すごいやつ」もいます。このようにお互いの個性を認め合う雰囲気が自分らしさを発揮できる環境を支えていると思います。また、才能にあふれ、知的刺激に富む仲間と過ごせることが互いを高め合える校風を作ってくれるのだと思います。
専門性が高く、生徒と気心の知れた間柄である教師陣
生徒の自主を支えるのが教職員です。専門性の高さを学外でも評価され、教材の作成、ラジオ講座の講師として活躍した者、オリンピックの候補選手に選ばれるなど競技を極めてきた者、専門分野だけでなく趣味の世界でもマニアックに取り組む者など、多種多様な教員の存在が刺激となり、生徒一人ひとりが自己を確立する意識を高めるきっかけになっています。また、本校は担任持ち上がり制で、学年を構成する担任陣が3年間さらには卒業後も生徒個々と深く関わり、気心の知れた間柄になっています。桐朋の特徴として、生徒と教員の結びつきの強さを挙げる卒業生も多数います。
思う存分活動することのできる充実した施設
創立75周年を記念した校舎の建て替えが2016年度に完成し、新たな環境に生まれ変わりました。高校の施設としては稀なプラネタリウムや天文ドーム、本格的な実験を安心・安全に行える理科の実験室、英語の「話す」「聞く」の技能の向上に繋がるCALL教室、男子校でありながら本格的な実習のできる設備を備えた家庭科教室など、充実した授業の展開できる教室を整えました。また、サッカー・ラグビー場とは別に野球場もある広大なグラウンド、5つの部屋を備え、種目に合った床ダンパーにより運動ストレスからの障害を予防する体育館、25mのプールなど、各種競技に思う存分取り組むことができます。
これからの時代に求められる資質として、「先行きの不透明な時代であるからこそ、多様な人々と協力しながら主体性を持って人生を切り開いていく力が重要になるということである。また、知識の量だけでなく、混とんとした状況な中に問題を発見し、答えを生み出し、新たな価値を創造していくための資質や能力が重要になるということである」(高大接続システム改革会議「最終報告」2016年3月)と提起されています。受け身で学ぶのではなく、自ら考え主体的に取り組む姿勢を育むこと、まさに、桐朋が大切にしている「自主の精神」を養い、将来を切り開く力を体得することが肝要なのです。桐朋という環境を活かすのはきみ自身です。われわれと共に学び、新たな社会を築いていきましょう。