新しい大学入試、批判的思考力の測定など先端的研究テーマに取り組む。

大学入試センターの特任助教として、国内・海外の大学入試動向についての調査研究に携わっています。昨年度は、ハーバード大学、ブラウン大学など米国の4つの大学を訪問し、日本とは全く異なる入学者選抜のあり方について調査しました。日本でも東京大学、京都大学が米国型に近い新しい入学者選抜方法の導入を検討し始めていますし、一方では、高校生が海外の大学を直接目指す動きも見られます。高校生や大学、入試関係者にとって役に立つ、信頼性の高い知見を提供できるように努力しています。

また、教育・発達心理学者として、人間の性格や論理的・批判的思考力の測定方法を開発し、それらがどう発達するかについて研究をしています。大学院生時代から双生児とそのご家族を対象に研究を行い、人間の個性を形成する遺伝と環境のメカニズムについて探求してきました。心理学自体、文系と理系の中間にある学問ですが、遺伝と環境の両方の影響を扱う双生児研究は、学際的で刺激的な研究領域だと思います。

人生の扉を開いてくれた、ESSでのディベート経験。

桐朋高校ESS時代はディベートに打ち込みましたが、この時に鍛えられた英語力や論理的思考力、プレゼンテーションの技術は、今に至るまで私の貴重な財産になっています。 研究では、日常的に海外の研究者とのやりとりや英語での論文の読み書き、学会でのプレゼンテーションが求められます。たとえば、私の博士論文の研究の一部では、性格の個人差に見られる遺伝と環境の影響について、日本・ドイツ・カナダ3ヵ国の研究者と共同した国際比較を行いました。

共同研究者は皆自分よりはるかに年長で経験のある一流の研究者ばかりという難しい状況の中で、なんとか筆頭著者として成果をまとめることができたのは、指導教授や日本の共同研究者のサポートの存在はもちろんですけれども、桐朋高校ESS時代に鍛えられた地力のおかげが大きかったと思います。現在も、論理的・批判的思考力の測定と教育に関する研究を行っており、これにもESSでのディベート経験が活かされていると思います。

高校入学、ESSの先輩達の迫力に圧倒される。

私が高校1年生でESSに入部した当時の一学年上の先輩達は、とても魅力的というか、迫力のある先輩ばかりで、大変大きな影響を受けました。今でこそ高校の部活や授業でも広く行われている英語ディベートですが、一学年上の先輩達が中学で入部した当時はまだ知名度も低く、試合形式も簡易なものだったと聞いています。その状況を、先輩達が大学ESSや米国の大会の先進的な知識・技術を積極的に導入し、他校まで巻き込んで高校ディベート全体のレベルを飛躍的に高めてしまったのです。

一学年上の先輩達はインターハイ・ディベートを2連覇し、私の学年でも優勝することはできましたが、土台を一から築き上げたのと、その上に乗っかって勝負したのとでは、大きな違いがあります。自分で自分の道を切り開いていくことは「桐朋ism」の重要な構成要素かなと思いますが、そういう本当に桐朋らしい人達の影響を高校からでも受けることができたのは、自分にとって大きなプラスでした。

英語ディベート・インターハイ3連覇に挑戦した高2の夏。

1996年、高校2年の時、私は夏に行われるインターハイ・ディベートの中心を担う立場になりました。既にお話した通り、先輩達がそれまでに2連覇をしており、その期待を受けた私達には大変なプレッシャーがかかりました。

ディベートでは、論題が2ヵ月前に発表されます。「日本政府は外国人の単純労働を合法化すべきか否か」という論題が発表されたその日から、即座に図書館に行き、資料をあさる毎日に突入です。文献調査、立論・反駁資料の作成、対戦相手ごとの戦略の構想、スピーチ練習などを徹底的に行いました。この間、学校は期末試験期間なのですが、試験勉強は完全にそっちのけです(笑)。

英語ディベート・インターハイ3連覇に挑戦した高2の夏。

当時ライバルだったのは、帰国子女が揃い、それまでの大会でほとんど負け知らずだった桐朋女子高校。「打倒・桐朋女子」を合言葉に、練習試合をしては戦略を何度も練り直し、大会当日まで睡眠時間を削って準備に没頭しました。決勝戦は予想通り桐朋女子との対戦。第三戦までもつれこんだ大接戦の末、なんとか優勝を勝ち取ることができました。

後にも先にも、他のことを何も考えずにあれだけ一つのことに集中できた経験はありません。私にとって最高の思い出のひとつです。将来、もし自分の研究がものすごく高く評価されることがあったとしても、あの時の充実感、嬉しさにはちょっとかなわないかもしれません。

「知りたい」という意欲に火をつける教育。

桐朋では、受験勉強にガリガリと生徒を追い立てることはありません。しかし、研究者肌の専門性の高い先生がそろっていて、知的好奇心を刺激する話題をたくさんしてくれました。たとえば、国語の授業では、芥川龍之介の「或阿呆の一生」を何通りもの解釈で読み解いてくれる先生がいて、「こんな解釈ができるのか」と衝撃を受けました。同じ授業を受けた親友は、その先生の影響もあって現在、国語の教師をしています。
その他にも、当時まだ一般的でなかったシャドウイングという方法で発音を指導してくれた英語の先生や、高校レベルを超えた高度な授業をしてくれた生物の先生、テキストから完全に脱線して中国古典の魅力をとうとうと語り続けてくれた漢文の先生など、面白い先生がたくさんいました。
大学受験を乗り越えるための勉強ではなく、「知りたい」という意欲、学問の面白さに触れさせてくれるのが、桐朋の教育だと思います。それは、一生の学びの原動力になる体験だと思います。

自分の頭で考え、判断して行動できる「個性」が育つ土壌。

桐朋には、自分の頭で考えて、自分の信念に基づいて行動する、そういう人が育つ土壌があります。既に触れたESSの先輩達もそうですし、私の知る他の卒業生たちにも、「みんなが○○しているから自分もなんとなく」という人は少なく、「自分のやりたいこと、価値があると思うことはこれだ」という軸がはっきりしていて、それをとことん掘り下げていく人が多いように思います。

教育・発達心理学を専門とする身としていい加減なことは言えませんが、仮説として、知的好奇心の旺盛な生徒が中1から相互に刺激し合うこと、最大で5つも年の離れた生徒同士が影響を受ける機会を持つ中高一貫の体制、生徒の知的好奇心に応える専門性の高い教師陣、受験勉強を強要せず生徒の自主性に重きを置く自由な校風、といった桐朋の特徴が、そういう際立った個性を生みだしやすくしているのではないかと考えています。

プロフィール


52期 1998年卒業
2002年、東京大学教育学部卒業。
2004年、同大学大学院総合文化研究科修士課程修了。
2007年同研究科博士課程修了。博士(学術)。
日本学術振興会特別研究員(SPD)、慶應義塾大学先導研究センター
研究員を経て、現在、独立行政法人大学入試センター特任助教。

山形さんの歩み

高1
公立中学から桐朋高校へ入学。自由で活発な雰囲気に驚く。ESS入部。
高2
インターハイ・英語ディベートに出場。桐朋高校3連覇に貢献。
高3
受験勉強のかたわら、桐朋高校や他校の後輩のディベートを指導。東京大学文科III類に現役合格。
大学
大学時代もESSに所属。教育学部・教育心理学コースに進学後は、学業に専念。
大学院
論文が心理学で最も評価の高い学術誌のひとつ「Journal of Personality and Social Psychology」誌に掲載される。
博士号取得。東京大学大学院総合文化研究科より平成19年度一高記念賞授与。
現在
独立行政法人大学入試センター・特任助教。「ジェネリック・スキルの測定と発達に関する基礎的研究」、「大学入試のためのスタンダードの作成」、「生涯発達におけるクオリティ・オブ・ライフと精神的健康」他多数の研究プロジェクトに従事。2013年、平成24年度日本双生児研究学会奨励賞受賞。
(2013年9月より,九州大学基幹教育院・准教授)

※プロフィールは2013年7月現在のものです。